品質工学の理論を駆使してもトラブルが発生する理由②

「品質管理セーフティネット」

品質管理ツールをプロセスアプローチでつなげるとともに、上流から下流への情報の流れだけでなく、変更が発生することによる手戻り作業の流れに対して作業工数を最小限に抑えて実現する仕掛けを作り、最小限の手間と工数で品質管理活動を維持できるようにする仕掛けが必要で、これを私たちは「品質管理セーフティネット」と呼んでいます。

セーフティネットとは網の目のように救済策を用意する仕組みのことです。個々の設計作業の効率化とともに、設計作業のつなぎ目で発生するノイズをできるだけ除去し、製品に不具合を作り込まないようにする仕掛けを、設計者に負担を掛けないで実現することが望まれています。

従来の設計支援環境の構築はどちらかといえば個々の作業の効率化ばかりに注目していました。しかし個々の作業効率の向上だけでなく、設計作業間の情報伝達の流れを良くすることで作業品質の向上とミスを起こさせないようにする仕掛かりの構築に着手している企業はそれほど多くありません。

厄介なのは、無から有を生むような創造的な設計作業に対しては、多くの設計者は集中して前向きに作業を実施していますが、手戻り作業や設計内容の修正などの管理的な変更作業などはどうしても気持ちが後ろ向きになり、注意力が落ちる傾向にあります。

FMEAを例に説明すると、製品設計で作成した図面や設計FMEAの内容は、後工程の工程設計で組み立て性の問題が発生したときに差し戻しが発生します。このとき設計の成果物である図面や設計FMEAを変更するだけでなく、機能ブロック図などにさかのぼって変更することもあるのですが、正しいバージョンのものに対し変更し、変更した内容がキチンと後工程の成果物にも反映できるようにしなければいけません。

このような面倒な作業を補完するための仕組みはITの得意分野ですので、ITを使うことで手間と工数を最小限に抑えたセーフティネットを構築するのが最適な解です。

ITを使わずにセーフティネットを運営すると、どうしても手順をどれだけ守っているのかといった監査的なアプローチになってしまいます。

監査のようなアプローチの場合、監査に対応するのに時間と工数が取られてしまいます。監査する側は網羅的に監査をするため、監査をされる側としては指摘事項が発見されると追加の作業が発生するため、できるだけ漏れ抜けなく準備を行います。しかしこの準備にも工数が掛かってしまうため、本来は品質向上させるための作業であったものが、監査に合格するための作業に目的が逆転してしまうこともあります。

先の自動車の運転の例にもあったように、作業者が予測していない事象――特に作業内容に変更が発生したときに、その変更内容が正しく各設計情報に反映できるようにセーフティネットを構築し、変更作業に対する設計者の負担を軽減する仕組みが要求されています。

品質管理セーフティネット構築の考え方として下記の5つのポイントの実現が必要になります。

  1. 設計作業の前工程のデータと後工程作業で使うデータをつないで、正しい情報をベースに作業をできる仕掛け
  2. 情報を取得したときに、以前の内容との変更点を分かりやすく気付かせる仕掛け
  3. 作業者が知っているデータから、関連するデータや経験に基づいたデータの存在を気付かせる仕掛け
  4. 作業結果を経験値としてフィードバックしたり再利用できるようにする仕掛け
  5. 各活動を俯瞰(ふかん)してマネジメントできる仕掛け

このような品質管理セーフティネットを構築にはPLMシステムが最適です。

そもそもPLMシステムには設計にかかわるさまざまなデータが蓄積されています。

各設計データは関連するデータ同士をリレーションで管理しているため、1つの情報からさまざまな関連情報を確認できます。

最近のPLMシステムではデータの差分表示ができたり、PLMのデータベースに蓄積されている情報をレポートとして表示する機能などもあります。

前出のFMEAを例にすると下記のようになります。

1)ブロック図の情報を取り込む

機能ブロック図・信頼性ブロック図を作成した電子データにある各ブロック情報を、設計FMEAの機能情報として取り込む

2)設計FMEAと機能ブロック図の同期

設計FMEAに登録する機能とブロック図の機能の同期を取るとともに、機能ブロック図に実施した変更を設計FMEAに取り込んだときに差分を表示し たり、採用している機能ブロック図のバージョンと設計FMEAのバージョンをリレーションで関連付けて、いつでも最新の情報をベースに作業を進めることを可能にする

3)既存のFMEA実績データを参照した分析の実施

設計FMEAデータ作成時には、PLMに経験として蓄積しているナレッジをライブラリ化して活用し、故障モードに対する原因や影響などの設定はノウハウとして蓄積しているライブラリ情報をベースに故障モードの分析を実施

4)RPNの推移をセグメント別に分析

設計FMEAのRPNの推移や原因の傾向などをサブシステムやコンポーネント別に見たり、システムの視点で製品から俯瞰して見えるようにすることで設計内容の見える化を実現

◇ ◇ ◇

 PLMシステムの多くはCADベンダーから提供されていることもあり、多くはCADのデータ管理システムとして使われています。

PLMシステムにはたくさんの図面情報や部品情報などが蓄積されていますが、CADのデータを管理する用途に使っているPLMシステムは、利用場面が限定されていることもあり導入した企業においてもあまりメリットを出せていないのが現状です。

今回ご紹介した品質管理セーフティネットをPLMシステムを使って構築するアプローチは、本来PLMシステムが持っている長所を有効に活用するだけでなく、PLMシステムに標準で持っているワークフローやステータス管理機能およびセキュリティ機能などの多くの人と共同作業することを前提にした機能を有効活用していくことができます。

設計業務効率化検討の多くの場合、個々の作業性の効率化や作業の上流から下流への一方通行の視点で仕組みを検討しがちですが、今回ご紹介した品質管理セーフティネットのような逆戻りの作業の手間を軽減することで設計業務の作業負担を減らし、期間短縮と品質向上を実現することも可能です。

-久次 昌彦-

広告